MEATERSの観察日記


by dj-fut

日本酒の使い方

「目的地周辺です。案内を終了します」

















車内の静寂を事務的な声が切り裂く。



















初めて乗ったプリウスは想像以上に静かだった。




















「ほら、あれですよ。」

















大野くんが指差す先にある木造のアパートは、そこだけ過去の時間に取り残されてしまったような、異質な空気を放っていた。























1時間前





















「おまえ免許あったんだな」




















「まだ取って半年しか経ってないですけどね」

















そう言いながら車線変更する大野くんの髪は以前よりもだいぶ伸び、その
横顔は以前よりも少しだけ大人びて見えた。

















「それにしては上手だよ。これはアーチェリーよりは役に立つ才能だなw」




















「ひどいこと言わないでくださいよ。」



















「そういえばお札って用意できたの?」



















「抜かりはないですよ!」





















間違えて破魔矢を用意したくせによく言う。



















そう。


今日は大野くんの親が所有する、精神的瑕疵物件に泊りに行くのだ。






















「昨日の昼間に女性用の下着も干しておきましたよ」






















その言葉の内容からは想像もできないような爽やかな笑顔だった。

























高井戸を過ぎたあたりでプリウスは幹線道路を外れた。
























「目的地周辺です。案内を終了します。」























「ほら、あれですよ。」
























問題のお化け屋敷は意外にも住宅街のど真ん中にあった。





















木造二階建てのそのアパートは灯りがひとつも点いてないせいか、その一角だけ夜が濃いような気がした。




















入居者が次々と出て行ってしまうだけあってか、見てるだけで脈拍が速くなるのを感じる。

















「さすがに怖いね・・・」


















「やめときますか?」









車から大きな袋を出しながら大野くんが言った。


やめる。なんて言い出すわけがない、と思っている行動だ。


















「いや、行こう。」



大野くんはおれのことをよく分かっている。


















おれも大きな袋を車から降ろし、大野くんの後に続いた。






















がんがんがんがん















鉄の階段を一段上るたびに二階の窓がカタカタと震える。











一瞬、記憶の隅をくすぐられたような懐かしさが頭をよぎった。

















もちろんここに来るのは初めてだが、理由はわかっていた。






















このアパートはおれが以前に白楽に住んでいたときのボロアパートに似ていた。






















「この部屋です」











階段を上りきってすぐ左のドアに鍵を刺しながら大野くんは言った。





















ガチャ












玄関を開けるとすぐに板の間があり、その奥に和室が見えた。






















この部屋の最後の住人は去年の5月に姿を消したそうだ。
















もちろん大野くんの親が雇った管理人は警察に連絡したが、主だった荷物も共に消えていたため夜逃げとして処理されたらしい。


















つまり一年半もの間、この部屋では人が生活していなかったことになる。




















しかしその割には、人の生活していた匂いが強く残っていた。























部屋の電気すら取り外された何もない部屋に、他人の匂いが残っているということに何ともいえぬ居心地の悪さを覚えた。
















「なんか感じますか?w」















ふいに部屋の壁に大きな人影がうつった。









大野くんが電子ランタンのスイッチを入れたようだ。




















LEDの無機質な光が和室を白く照らし出す。





















6畳の和室と3畳ほどの板の間の台所、



間取り的には1Kだった。



















「さぁ、準備しましょうか!」









大野くんはそう言いながら袋の中身をランタンの前に広げ始めた。



















「おまえすげぇな笑  怖くねぇの?」


















「うーん。ぼくは霊とか信じてないですからね。
前に冬人くんも信じてないとか言ってませんでしたっけ?」
















なんて心強いやつだ。



















けどなぜだろうか。この敗北感・・・



















「まぁ信じてないけどさ、そういうもんでもないじゃん?こういうのは小さい頃からある未知に対する根源的な恐怖だろ?」




















「うーん。意外ですね。冬人くんはそういうコントロールが上手いと思ってました。

ぼくは冬人くんが言ってた原因の中なら地上げ屋が1番怖いですよ。」





















「そんなの得意のアーチェリーで破魔矢撃ち込んでやれよ」





















「効きますかね?」




















「矢が刺されば誰でも効くだろw

そう考えるとおばけにも人間にも効くって、1番マイティな道具かもしれないな」


















「ちなみに冬人くんは何が1番怖いですか?」























「ダントツで変態だろ。話が通じない人間が1番怖い。

霊が人間を殺したなんて話は聞いたことがない。人を殺すのはいつも人間だよ。」




















そう言いながらおれも袋から日本酒を取り出した。




















ここでふと頭にひとつの疑問がよぎった。


























「ねぇ・・・日本酒ってどうやって使うの?」












「・・・飲むんじゃないですか?」















夜はまだ始まったばかり。


















幽霊の正体見たり枯れ尾花、という言葉を信じて次回へ続きます。









果たして日本酒は飲んでいいものなのかどうか。











次回明らかになります。
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by dj-fut | 2010-10-13 19:08